H23 7.医療環境の充実について  (1) 医師不足解消への取り組みについて (知事)

Q 菅原文仁議員(刷新の会)

 まず、これをご覧ください。医師の地域偏在についての資料です。埼玉県の人口10万人当たりの医療従事者の数は139.9人であり、対人口比で全国最下位というのは、これは周知の事実あります。しかし、中でも注視しなければならないのは、極端な医師の偏在なのです。
全国平均の人口当たりの医師数に比較して、従事者数で見ても、ほぼ無医村に近い東秩父村はじめ、10分の1以下、4分の1程度の自治体が数多くあります。
では、なぜ県立医大なのでしょうか。これをご覧ください。ちょっと見えづらいかもしれませんが、これは私が作成したグラフですが、人口10万人当たりの医学部の定員数をX軸に置きまして、Y軸には人口10万人当たりの医師数、医学部定員と医師数を相関関係で掛けたものです。この2つの相関を見ますと、0.354という相関係数が導かれます。埼玉県はこの中でこちちらです。10万人当たりの定員が一番少なく、そして医師数が一番少ないのでこちらになります。グラフにありませんが下位5県で相関係数を導きますと、さらに数値は上がってまいります。
やはり県内に医学生を増やせば医師が増えるというのが私の認識です。また、ほかにも埼玉県は、地元高校出身率10.8パーセントと全国の平均の3分の1程度であり、非常に低いことも医師の定着を阻害する要因になっています。
さて、そこで私は短期、中期、そして長期の3つの提案をいたします。
まず、短期的な作戦として、医師の働く環境を徹底的に良くすることを提案します。勤務医の労働環境は大変劣悪といわれています。医師会の調査では、埼玉県は週59時間以上働く勤務医が40パーセント以上います。勤務医は当直もあり、仕事が重なればかなり過酷な労働です。これまでの取り組みとともに、勤務医が働く環境をさらに改善して、埼玉で医療をやりたいと思える環境づくりを徹底してはいかがでしょうか。
そして同時に、医師が働きたいと思うような、意欲をかき立てるような高度かつ専門的な医療を導入することが肝要です。そういったトータルの医師環境、労働環境を良くしていくことはできないでしょうか。
次に、中期的な戦術として、他地域の医科大学に地域枠を拡大することを提案します。
地域枠とは、地域医療を担う医師を確保するために医大に特別な定員枠を設ける制度のことです。現在埼玉県の地域枠は、県内唯一の医大である埼玉医大の10名だけです。これを県外の大学にお願いし,特別地域枠を設定してはいかがでしょうか。つまり医学生を外から獲得するということです。
例えば、東京医科歯科大学は長野県に2人、茨城県に2人、この地域枠を設定しております。茨城県では、平成24年度に県内の9名の地域枠以外に、県外の大学に11名の地域枠を設定しており、合計20名を獲得する動きを見せております。埼玉県もまずは今年度茨城県並みに20名を目指し、その後は30名と目指していかれたらいかがでしょうか。
そして、長期的な戦略、それは埼玉県に医大を創出することです。知事は、県立医大の設置についてイニシャルコストで700億円、ランニングコストで65億円程度の投資が必要という見解を示されました。確かにこれは高い買い物です。ただし、700万県民全員で10年間かけて負担したら、ひと月の県民負担は約90円です。また、優良な納税者である医師を含め1,300名の雇用も確保できます。
そして、埼玉県立医科大学が難しそうであれば、代替案として現在医学部を持つ大学を誘致すること、そして新設の私立医大を含めた私大の誘致を検討することも考えられると思います。
先日、茨城県が早稲田大学に医大の打診をしたそうです。早稲田大学のキャンパスはどこにあるのでしょうか、埼玉県です。
あらゆる可能性を捉えてこの医師不足解消にご検討をしていただきたいのであります。知事のご見解をお伺いします。

A 上田清司 知事

 今、菅原議員から医師不足の解消に向けた多くのご提案をいただきました。
まず、「労働条件の緩和と同時に高度・専門的な医療の導入により医師の誘因を図れないか」のご提案ですが、全くそのとおりです。
まさしく、質の高い医療を提供したり、多様な症例、そうしたものを学ぶことができる病院に医師は集まります。
そして、通勤可能な便利なところにどうしても医師は集まる傾向にあります。
ゆえに、よりローカルな所に医師が行かない。従って、自治医科大学ができて、一定程度の期間を強制的に地域に入るというような仕組みも出来上がったところであります。
そういう意味では、医師を集めるということに関しては、国が病床を規制している訳ですから、知事の裁量枠を活用して、例えば済生会栗橋病院に救命救急センターの設置のための増床など中核病院の整備・誘導というものを進めてきたりもしました。
あるいは、今回の小児医療センターとさいたま赤十字病院のさいたま新都心への立地構想も、そうした優秀な医師の皆さんを集めるというのでしょうか、引き留める、あるいは新たに誘い込むという、言葉が適切かどうかは分かりませんが、そういう意味合いもないことはありません。
また、医師が働きやすい環境、つまり忙しすぎて疲れて医師がいなくなって、さらに忙しく疲れてまたいなくなるということがないようにということで、中核病院、拠点病院を地元の医師会が応援するという仕組みづくりもこれらの試みの中の一つだというふうに思っております。
救命救急センターや周産期母子医療センターに勤務する医師に対してはスキルアップを図るための研究活動に助成金を出して、昨年度は157人の医師が利用されたところでもございます。
こうした手厚い助成というのも必要なのかな、と思います。
また、カルテ管理など医師の事務を補助する医療クラークという者を確実に増やしていく、そして、そういう人たちを雇用している病院に対しての助成を行っていく、こういう形で医師の負担を減らすという仕組みもやっているところですが、昨年度から42病院で利用されております。
このほか、小児科医や産科医への分娩手当に対する補助を行ったり、処遇改善をそれぞれ細かくやっているところですが、それでも、苦戦が続いているという、こういう状況でございますので、ご提案をさらに生かすようにしっかりと取り組んでいきたいと思っております。
大学医学部への地域枠の設定についてでありますが、県では平成22年度の5人から今年度は10人へと枠を拡大しています。
ご提案の県外大学への地域枠の設定については、地域枠は既にすべての都道府県で設定されておりますので、大学の定員拡大そのものにも限界がありますから、今後新たに要請をしていくのは基本的には難しいのかなというふうに思っております。
今後、県外の医学部に進学する本県出身の学生に対して手厚い奨学金などを与えることで引き留めるというような方法もあるのか、こんな研究もしなければいけないのかな、というふうに今考えているところです。
次に、埼玉県に医大を創設することについてであります。
現在、国は医学部新設を認めておりませんが、検討会を設けて医学部新設についての議論をしている最中です。賛否両論があると聞いておりますが、早急にそうした結論が出るかどうかまだ分かりません。
ただ、県議会でのご指摘もここにきて多数挙がってきておりますので、昨年度から医学部新設の可能性についての検討を始めたところでもございます。
医学部新設については課題を整理した上で、国の動向もしっかり踏まえて、その可能性について検討していきたいと思います。
議員お話しの県立大学医学部の代替案ですが、国が医学部新設を認めていない段階ですので、医学部が無い大学の誘致はなかなか実現が難しいのかなと思います。
しかし、既存の私立大学医学部を誘致することは可能なアイデアであるかな、このように思います。